お酒を飲んだ翌日に訪れる、頭痛や吐き気、倦怠感といったつらい「二日酔い」。この二日酔いの原因と、体内の重要な抗酸化物質「グルタチオン」が深く関わっていることが、科学的に解明されています。美容や健康目的で注目されることが多いグルタチオンですが、アルコールの分解プロセスにおいて、実は非常に重要な役割を担っています。
二日酔いの犯人「アセトアルデヒド」とグルタチオンの戦い
二日酔いの症状を引き起こす最大の原因物質は、アルコールが肝臓で分解される過程で生まれる「アセトアルデヒド」という有毒な物質です。
- アルコールの分解プロセス:
- 体内に摂取されたアルコール(エタノール)は、まず肝臓で酵素によってアセトアルデヒドに分解されます。
- 次に、この有毒なアセトアルデヒドを、別の酵素が「酢酸」という無害な物質に分解します。
- 最終的に、酢酸は水と二酸化炭素に分解され、体外へ排出されます。
- グルタチオンの重要な役割: この2番目のステップ、つまり有毒なアセトアルデヒドを無害化する過程で、グルタチオンは酵素の働きを助ける「補酵素」として大量に消費されます。グルタチオンはアセトアルデヒドと結合し、その毒性を中和する役割を担っているのです。
- 二日酔いが起きるメカニズム: 大量にお酒を飲むと、肝臓はアセトアルデヒドを猛スピードで生産します。すると、肝臓内のグルタチオンが分解のために次々と使われ、やがて在庫切れを起こしてしまいます。処理能力を超えて溢れかえった有毒なアセトアルデヒドが体内を巡り、頭痛や吐き気といった二日酔いの典型的な症状を引き起こすのです。
グルタチオン補給は二日酔いに有効か?
「体内のグルタチオンが不足するなら、外から補給すれば良いのでは?」という考えから、二日酔いの予防や治療を目的としたグルタチオンの利用が一部のクリニックなどで行われています。
- 理論的な有効性: 理論上は、アルコール摂取前後にグルタチオンを補給することで、肝臓のグルタチオン枯渇を防ぎ、アセトアルデヒドの分解をスムーズに助ける効果が期待できます。これにより、二日酔いの症状を軽減、あるいは予防できる可能性があります。
- 臨床エビデンスの現状: 二日酔いの予防・治療目的でのグルタチオンの有効性を検証した、質の高い大規模な臨床研究はまだ多くありません。しかし、一部の小規模な研究や臨床現場からの報告では、飲酒前にグルタチオンを点滴することで、翌日の二日酔いの症状が軽減されたという結果が示唆されています。
- 摂取方法の課題: グルタチオンは経口摂取(サプリメントなど)では胃酸で分解されやすく、体内への吸収率が低いという課題があります。そのため、より確実に血中濃度を高める方法として、自由診療のクリニックでは点滴(静脈内投与)が用いられることが一般的です。
検討する前に知っておきたいこと
- 根本的な対策ではない: グルタチオンの補給は、あくまでアルコールによるダメージを軽減するための補助的な手段です。二日酔いを防ぐ最も確実で健康的な方法は、飲酒量を適正に保つことです。
- 体質による個人差: アルコールやアセトアルデヒドを分解する酵素の活性は、遺伝的に個人差が大きいです。そのため、グルタチオンを補給した際の効果の感じ方にも個人差があると考えられます。
- 保険適用外(自由診療): 二日酔い対策としてのグルタチオン点滴は、病気の治療ではないため健康保険は適用されず、費用は全額自己負担となります。
お酒との上手な付き合い方のために
二日酔いの原因である有毒物質アセトアルデヒドの分解に、グルタチオンが不可欠な役割を果たしていることは科学的な事実です。体内のグルタチオンが枯渇することが、つらい二日酔いの引き金となります。
グルタチオンを外部から補給するアプローチは、このメカニズムに基づいた合理的な対策と考えられますが、最も大切なのは、自分の体質や限界を知り、お酒と上手に付き合うことです。